猫の顔をよく観察すると、口の横あたりにふっくらとした膨らみがあることに気づくはずです。そこからピンと張ったヒゲが生えており、まるで“ひげの土台”のように見えます。この部分、じつは「ウィスカーパッド(whisker pad)」と呼ばれる、猫にとって非常に重要な感覚器官の一部なのです。
ふわっとした見た目に隠された、このパーツの驚くべき機能と役割に迫ってみましょう。
ウィスカーパッドとは?

ウィスカーパッドとは、猫のヒゲ(ウィスカー)が集中して生えている頬のふくらみ部分を指します。英語では“whisker pad”と呼ばれ、日本語ではあまり馴染みがない言葉ですが、猫にとっては欠かせない感覚のハブのような存在です。
このふくらみの中には、血管や神経、筋肉が密集しており、ヒゲを通じて得られる情報を敏感に受け取る機能があります。見た目以上に繊細かつ高性能なセンサー部位といえるでしょう。
ヒゲと連動する精密なセンサー
猫のヒゲには、物理的な接触だけでなく空気の流れや振動までも感じ取る能力があります。この情報を即座に脳に伝えるために、ウィスカーパッドには数百本もの神経終末が張り巡らされているのです。
例えば…
- 猫が壁に顔を近づけるだけで障害物の存在を察知できる
- 暗闇の中でもヒゲを使って周囲の空間を“触る”ことができる
- 狩りのとき、獲物の動きや微細な空気の変化をキャッチする
こうした高度な感覚機能は、ヒゲ単体ではなくウィスカーパッドとの連携によって成り立っているのです。

感情がにじむ、ウィスカーパッドの動き
意外に思われるかもしれませんが、ウィスカーパッドは猫の感情表現にも一役買っています。猫のヒゲは、表情や気分によって動き方が変わります。
- リラックスしているとき:ヒゲは横に広がり、ウィスカーパッドもふっくらと見える
- 興奮・警戒しているとき:ヒゲが前方に突き出し、ウィスカーパッドも緊張して前に出る
- 不機嫌なときや攻撃態勢:ヒゲが後ろに引かれ、ウィスカーパッドは少し引っ込む
このように、猫の気持ちはウィスカーパッドの形や動きにも表れるのです。猫好きさんにとっては、ヒゲの動きとあわせてウィスカーパッドにも注目すると、より深く猫の気持ちが読み取れるかもしれません。

病気やケガで注目されることも
ふだんはあまり意識されないウィスカーパッドですが、ケガや炎症、皮膚の異常が起こることもあります。
- 傷ができるとヒゲの動きに支障が出る
- 腫れやしこりがあるときは要注意(膿瘍や腫瘍の可能性も)
- ヒゲの抜け落ちが目立つ場合、ホルモンや免疫系のトラブルかも
ウィスカーパッドに触れたときに強く嫌がる場合や、左右差がある場合などは、早めに獣医さんに診てもらうことをおすすめします。
ウィスカーパッドを大切に扱うために
猫のヒゲは決して無造作にカットしてはいけません。ヒゲを切ることは、猫の「目や耳をふさぐ」のと同じくらいストレスを与えると言われています。
ウィスカーパッドも同様に、繊細な器官なので過剰な触れ方や強いブラッシングは避けましょう。触るときは、猫がリラックスしているときに、やさしく撫でる程度がベストです。
また、猫が狭い場所に顔を突っ込むのが好きな場合も、ウィスカーパッドやヒゲが圧迫されていないか観察してあげることも大切です。特に食器のフチが高すぎると、ヒゲやウィスカーパッドが触れてストレスを感じる猫もいます。
知れば知るほど奥深い、猫の“顔のふくらみ”

見た目にはただのかわいい“ぷにっとしたふくらみ”に見えるウィスカーパッド。しかしその内部では、高感度なセンサーが常に周囲の情報を収集し、猫の生存本能を支えているのです。
猫が物陰に潜んでじっと何かを見つめるとき、ふいにヒゲを前に突き出して身構えるとき、その動きの裏にはウィスカーパッドの活躍があるということを、ぜひ覚えておいてください。
あの小さなふくらみが、こんなにも猫の世界を支えているなんて——きっと見る目が変わるはずです。